フィリピンで3年に一度ある選挙の投票が5月9日(月曜日)に行われ、今回は6年に一度の正副大統領選もあったからかなり過熱し、その選挙結果も全国区である正副大統領選や上院選では、日本のように即日開票で大勢が分かるという具合になっていなくて、開票を進めている内にほぼ決まりという形で選挙を仕切る中央選挙管理委員会がバラバラと発表している。
正副大統領にはマルコス-ドゥテルテ組が事前の世論調査通りに当選し、その得票数は3000万票を超えて世界の耳目を集めたが、登録有権者6700万人の中で投票率が83%台になるので投票総数は5500万票に達するから数字の大きさだけで驚いてはいけない。
フィリピンと日本の総人口だが、日本は1億2610万人、フィリピンは1億1100万人と近く、2021年にあった日本の第49回衆議院議員選挙では日本の有権者数は1億562万人となっていて、今回のフィリピンの登録有権者数6700万人と比較すると人口に比べてかなり違うことが分かる。
日本は18歳になれば自動的に住所地の自治体から選挙の葉書が送られ投票を出来るのと、フィリピンのように自らが住所地の自治体に行って『選挙人登録(一度で良い)』をしないと選挙権を得られない制度の違いがあり、日本はこの自動的からか選挙に関心は薄くなって投票率の低さが問題になり、自治体首長選挙などでは投票率20~30%台など珍しくない。
ちなみに先述した第49回衆議院議員選挙の投票率は55.92%で相変わらず低いが、これでも前回よりは2.25%上昇していて、多少の関心は高まった感じはあるものの、有権者の半数、そのまた半分程度の得票で、つまり有権者の4分の1の意志で国政の方向が決まってしまうのはやはりおかしい。
こう書いていて、フィリピンの投票率は80%を超え日本と比べて凄いと思うが、実数は先述したように有権者数は日本1億562万人とフィリピン6700万人で4000万人近くの差がある。
選挙権を持たない18歳未満の総数がフィリピンは何人なのかはっきりしないが、平均年齢が23歳代と若い国なので全体の3分の1の4000万人くらいと見て良く、そこから投票資格を持つのは7500~8000万人くらいと見て良い。
仮に日本式のように自動的に選挙権を得る方式を当て嵌めて投票率を算出すると2022年選挙の投票総数は5500万票なので実質60%~70%台になり、この数字から 熱狂的なフィリピン人の選挙への関心もいわれるほど高くないことが分かり、今回副大統領に当選したダヴァオ市長の地元でも投票率75%という数字が出ている。
また、フィリピンにも在外投票制度があり、2022年選挙の登録者数は約170万人で投票率は30%台というから、ここにもフィリピン人の投票熱はいわれるほど高くなく、それでも日本の直近の第49回衆議院選挙時の日本人在外選挙登録者数は全世界で10万人を大きく割り、投票率も20%を少々超える程度であったからフィリピンは遥かに選挙への関心は高い。
さてフィリピンの選挙のある年はGDPを押し上げるほどかなり金が動き、その中には『買票』といって一票いくらで票を売り買いする行為がフィリピンは当たり前で、その相場は選挙区によって違うが、小生が直接聞いた話では『500ペソ(約1100円)』で、この500ペソの相場だが、フィリピンの一日の公定最低賃金が500ペソ以下という地域はいくらでもあるから価値はある。
こういった裏の金はGDPに直接現れないだろうが、もらった500ペソで飲み食い、買い物をするだろうから消費としてGDPに寄与し、この買収行為でもらった選挙民は全く悪びれないところがフィリピン人の特質を良くも悪くも表しているが、こういう実態ではフィリピンから汚職を撲滅するのは絶対無理といっても過言ではない。
そういうフィリピン選挙だから金がかかり、その元を取るために政治屋は汚職に手を染めるのだが、今回大統領に当選したマルコスなど湯水のように使った選挙資金の原資は父親が大統領在任中に国庫を私物化、またプロジェクトからのキックバックをしこたま溜め込んだ汚れた金で、その辺りが票を入れた選挙民は分かっていないようだ。
写真はセブのある場所で見かけたこちらの選挙ポスター掲示の状態で、こういう光景はフィリピン中当たり前に在り、ここなどまだ綺麗に掲示している方で、場所によっては多過ぎて何が何だか分からない状態のすだれ状態になってゴミにしか見えない所も多い。
写真の左にある太い木の幹にポスターを釘で打ち付けているのがあって、こういう立ち木にポスターを張るのは普通でどういう性根なのかと思うが、それでも選管は立ち木や公共物に掲げたポスターは違法として撤去するといっているが、あまりにも多過ぎて追い付かず野放しである。
ちなみに写真の木にポスターを打ち付けた候補者は上院選立候補者で、この人物はアロヨ政権時代に史上最年少の国防大臣に就任し、アキノ(子)が当選した2010年の大統領選に出て、4位で惨敗するが、アキノとは縁戚で今回政界へ復帰する野望をもって立候補した。
上院選の当選枠は12人で、それに対して64人が立候補し、この人物は1260万票近くを得たものの12人目で当選した候補者に250万票及ばず15位で落選。陣営はもう一歩だったと資金は豊富だから次回を期しているかも知れない。
その右隣りに4枚ぶら下がっているポスターはセブ州知事選立候補者で、この人物は親の州知事の地盤を継いで3期9年務め、その後下院議員2期を経て前回選挙でセブ州知事に復帰し、今回再選され、一時は今回の上院選候補者の名前に挙がる程知名度はあるが、そんな博奕を打つより安全なセブで君臨する方が良いようだ。
セブ州知事選は事前通りに再選されたが、副知事には反対党の人物が再選されていて、この副知事は2期6年州知事を務めて3期目にどういう訳か副知事選に廻って当選するが、その時の選挙は絶大な力を持つポスターの人物が出馬した時で、勝てないと思って尻尾を巻いて逃げたなどという話も残る。
その右側3枚のポスターの人物は下院の政党別の立候補者でこういう田舎にもポスターを張るのは金もかかると思うが、金がかかるといえばかつては選挙ポスターといえば紙に印刷していたが、今はビニールの上に印刷する『タープリン』に全部置き換わっていて、耐久性は抜群だが制作費は紙の時代と比べれば比較にならない程高い。
こういったポスターを作るのに一枚当たりいくらするのか分からないが、ポスター掲示のための人件費を考えると一枚1000ペソかかっていてもおかしくはなく、それが上院選のように全国に仮に1万枚貼り巡すとポスター代だけで1000万ペソもかかり、金のない者は立候補が出来ないし、よしんば立候補出来ても当選出来ない仕組みになっている。
フィリピンのように野放図に掲示されるポスターを思うと、日本の選挙ポスターに関して証紙を張るなどの枚数制限がある厳格さは貴重で、掲示場所も特設された掲示板のみですっきりしているから、フィリピンも見倣ったらどうかと思うがまず無理な話である。
さて選挙後のこれらポスターの行方だが、候補者陣営は選挙が済めば用なしで稀に片付ける良心的な候補者もあるらしいが、ほとんどは放りっ放しで、選挙が終わっても長い間野晒しになっているのが多い。
そのため自治体は美観上問題があるとしてこれら放置されたポスターを回収しトラックに満載している光景が選挙後の風物詩となり、紙の時代なら焼却処分で一件落着となるが、今のようにビニールに印刷したポスターは焼却も出来ず、かといって埋めてもそのまま腐らず残るので新たな公害発生と問題になっている。
こうして選挙は終わったが、選挙費用というのはいくらフィリピンとはいえ無制限ではなくそれなりに大統領選候補者以下法定枠はあるらしいが、これがどう見てもいい加減で数字さえ合わせて置けば良いような代物で、法定選挙費用を超過していると指摘されて当選失格を言い渡されたのは寡聞にして聞かない。
こういうフィリピンの選挙は3年に一度あるフェイスタ(お祭り)というように、どれだけ選挙民を熱狂させたかで決まる構造になっていて、これで良いのかと思うが選挙で金が動いて景気が良くなれば良いと思うのが大多数だから、この先良くなる見込みはないのではないか。

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