|
選挙の年はGDP(国内総生産)値が選挙運動に投入される資金によって大幅に上がるフィリピンだが、2016年5月の正副大統領選挙を巡って動きが活発になって来た。【写真は大統領府、マラカニャン宮殿のロゴ】
大統領の再選が禁止され今期限りのアキノ大統領は2010年に組んで正副大統領選を戦ったロハス内務自治長官を自身の後継候補とすることを8月31日発表した。
ロハスは58歳、第5代大統領の孫に当たり、父親も上院議員。フィリピン有数の財閥一族の御曹司と毛並みは申し分なく、上院議員選に出馬した時はトップ当選をし、アロヨ前政権時代には貿易産業省長官を務めている。
ロハスは前回大統領選に出馬する予定だったが、後発のアキノ(当時上院議員)が風に乗って有力候補として頭角を現わしたために、自身は副大統領候補に回った経緯があった。しかしながら、副大統領選では当時泡沫候補と言われたビナイ(元マカティ市長)に僅差で敗れる番狂わせがあり、次期大統領選に捲土重来を期していた。
フィリピンの選挙は『人気投票』と称されるように、世論調査が勝敗の行方を左右する所があり、次期大統領選の世論調査では副大統領のビナイが優勢を保っていたが、最近の調査ではポー上院議員(女性)がビナイを蹴落とし、トップの座を占めている。
一方、ロハスはビナイの半分にも満たない支持率で、4位前後を低迷していた。こういった状況からアキノは前回の選挙選の恩義から、自身の高い支持層をロハスに向くように今回の指名を行った。
この発表前にアキノはポー議員にロハスと組んで副大統領候補に回るよう要請したようだが、ポーは前大統領と争った前々回選挙で、アロヨに小差で敗れた人気俳優のポーの遺娘で、それ一つだけで政界入り(2013年上院選でトップ当選)したが、今回の棚ボタ式の大統領の椅子に野心を抱いたのかアキノの説得には応じなかった。
また、ポーはエスクデロ上院議員と組んで正副大統領選に出るのではないかとの観測も流れていて、ポーにしろエスクデロにしろ芸能人並みの人気でしかなく、野心だけのこういった人物が国を左右するトップ候補になること事態、フィリピン政治の根本的な欠陥が見えている。
一方、対する野党陣営も勝機と見て、ビナイは早々と副大統領の閑職を利用して選挙運動に邁進中で、アキノ現政権批判のボルテージを高めているが、自身は庶民の出だと看板の売り文句とは裏腹に、瞬く間に一家で上下院議員とマカティ市長の座を占め新興の『政治王朝』形成にまっしぐら。
このビナイ人気に手を焼いた与党側はビナイのマカティ市長時代の汚職を暴露する作戦に出ているが、弁護士出身のビナイの守りも固く、ビナイ追い落としの効果は上がっていない。
こういった中、ビナイ陣営はハワイに逃亡して彼の地で死んだ独裁者マルコスの息子マルコス上院議員を担ぎ出す動きもあって互いの出方を伺っている状況ともなっている。
この動きの中で、フィリピン政界は『勝ち馬』に乗る伝統が強く、変節などはお構いなしで今回のロハス指名を巡っても、与党側はビナイに勝てないと見て野党側に寝返る議員が多数出るとささやかれている。
こういった肝心の選挙民不在の政治劇はどこの国でも共通するものだが、フィリピンは特に目立ち、これがフィリピン文化と諦めているフィリピン人識者も多い。
|