|
フィリピン版『一国二制度』ともいわれる、ミンダナオ島一部地域にイスラム自治政府を創設するために『バンサモロ基本法(BOL)』が制定され、その承認と帰属領域を巡って1月20日に該当地域で住民投票が行われた。
 該当地域はBOL制定以前にイスラム教徒自治区(ARMM)が発足、運営していたが、自治区内の反政府武装組織モロ・イスラム解放戦線(MILF)の反発が強く武装闘争は収まらず、機能不全に陥っていた。
しかし、アキノ前大統領とMILF議長との電撃会談が成田空港で行われ、同組織との和平が成立し、ドゥテルテ政権に引き継がれBOLが国会で成立。
その一環としての住民投票で、該当地域は現在のARMMを構成しているミンダナオ本島側の北ラナオ州、コタバト州、スルタン・クダラット州、島嶼部のバシラン州、スールー州の5州とコタバト市とイサベル市で有権者は約284万人。
投票は平穏に行われ翌21日から開票が始まっているが、途中集計では「賛成」は148万票を超えていて、登録投票数(約198万人)の70%以上を占め、政府筋は承認間違いないと安堵している。
しかし、BOL制定はMILF主導であったために敵愾心を持つ、もう一つのイスラム武装組織モロ民族解放戦線(MNLF)が拠点とするスールー州では反対が52%と賛成を上回った。
また将来新自治政府の首都となる予定のコタバト市は約59%の賛成を得たが、バシラン州州都のイサベラ市では反対が賛成を上回る53%を得、必ずしも該当地域の住民は一枚岩でないことが明らかになった。
しかしながら、今回の住民投票は個別の賛否結果には関係なく、全体で計算されるために反対州を含めて新自治政府発足は確実と見られ、反対を表明している地域の民意が反映されない結果となり、無意味との指摘もあり、発足後に火種となる可能性が高い。
また、反対票が上回ったスールー州知事が最高裁にBOLの合憲性を提訴していて憲法問題が解決されていない見切り発車は否めない。
同様にコタバト市長やイサベラ市副市長が反対を表明していて、主目的である『平和』のための自治政府発足は利害が絡んで容易ではないとの観測もある。
BOLは自治政府に外交と国防以外を自治政府に付与し、徴税なども中央政府と折半するようになっているが、司法権がイスラム教徒にはイスラム法に基づく司法体系が適用され、キリスト教徒には従前のフィリピンの法律が適用とされる方法を取っていて、法律の二重性に疑問視、危惧が指摘されている。
フィリピンのキリスト教信者はカトリックが全人口の80%以上を占めるカトリック大国であるが、イスラム教信者も5%以上存在し、近年は信者数が増えている。
特にミンダナオ島はスペインがフィリピンを植民地化する前からイスラム教徒が多く、20%以上を占め、地域によってはイスラム教徒が多数派となっている。
そのためミンダナオ島は元々イスラム教徒の島とという意識が強く、カトリックが占める中央政府に反発が強い。
また、キリスト教徒によるミンダナオ島への移住がマルコス政権以来政策的に進められ、イスラム教徒への迫害が重なったために半世紀以上も内戦状態が続いた。
その内戦を終わらせる趣旨でBOLを制定、住民投票が行われたが、これによって平和を進めるのも守るのも住民であり、党派の利害を超えて推進するべきとの声は高いが、かつての自治政府、イスラム教徒自治区(ARMM)が失敗に終わっているために予断は許さない状況となっている。
なお、2月6日に北ラナオ州とコタバト州の一部で同じ住民投票が行われて最終的な領域の承認作業は終わり、自治政府発足は2022年としているが、これはミンダナオ島を地盤とするドゥテルテ大統領の任期が同年で終わるため、在任中の手柄にするように一連の政治作業が組まれている。
【写真は新自治政府発足後の首都となるコタバト市の様子】
|