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今でこそフィリピンはカトリックが多数派となっているが、カトリック伝播以前はイスラムの布教が盛んで、南部ミンダナオ島からルソン島マニラまでその範囲は広がっていた。
そのため、現在もミンダナオ島を中心にイスラムは盛んで、歴史の中で、ルソン島マニラを中心とするタガログ族中心の中央政府に対しては敵愾心が強かった。
特に独裁者マルコス政権になって、カトリック教徒のミンダナオ島移住が進められ、父祖伝来の土地を持つ少数民族を中心とするイスラムを信仰するモスレムとの争いが増えた。
反マルコスを旗印にするフィリピン共産党主導の新人民軍(NPA)と共に武装闘争に発展し、1970年、モロ民族解放戦線=MNLF(Moro National
Liberation Front)を結成。
NNLFは1990年、自治政府を勝ち取るが、執行部の腐敗と路線の対立によって1981年、NNLFは分裂しモロ・イスラム解放戦線=MILF(Moro Islamic Liberation Front)【写真はMILFの旗】が結成された。
弱体化したNNLFを尻目にMILFは支持を伸ばし武装闘争を継続。この事態を巡って歴代の政権は強硬派のエストラダ、懐柔派のアロヨとミンダナオ和平に関して扱いは転々としたが、アキノ現政権になって和平方針のブレがなくなり、2011年、日本でアキノ大統領とMILF議長との秘密会談が行われるなど和平機運、体制が高まった。
翌2012年、政府とMILFとの間で交渉していた和平枠組みが合意。2014年、和平協定調印が行われ、2016年を目標にバンサモロ自治政府樹立までこぎつけた。
この間、2013年にはMNLFの失脚した元議長派によるミンダナオ島サンボアンガ市街地の占拠事件が起き、10万人以上の避難民を生じる事態も発生したが、ミンダナオ和平の流れは変わっていない。
このほど2014年の和平協定に基づいて、MILF戦闘員(1~2万人)の武装解除がミンダナオ島マギンダナオ州で、武装解除国際監視団(IDB)側へアキノ大統領及びMILF議長ムラドが見守る中行われ、第1陣145人の銃器類が引き渡された。
この武装解除は段階的に行われ、MILF戦闘員から民間人になった者には生計支援に一時金2万5千ペソ(約7万円)や政府所管の健康保険証が支給され、元戦闘員の子弟には奨学金などが順次支給される。
政府側は全4回の引き渡しで全戦闘員の武装解除を目指している。しかし和平の根幹となる新自治政府樹立の拠り所となるバンサモロ基本法案は現在も延々と国会審議中で、自治政府樹立に反対する議員の妨害、および自治政府樹立を憲法違反とする裁判が多数提訴されているために、アキノ政権が目論んでいるスケジュール通りになるか危ぶまれている状況となっている。
アキノ大統領は任期の切れる2016年5月までに和平を実現して歴史に名前を残したい思惑だが、スケジュール遅延によってMILF側が不信感を持っているには間違いなく、武装解除がこのまま順調に進められるかどうか不透明となっている。
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