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フィリピンの国会議員や自治体首長など公選の公職に就いている者で、世襲でない人物を探すのは困難で、これは世界的な傾向でもあり、日本も国会議員はその毒に汚染されて選良としての質の低下がはなはだしい。
フィリピンの場合、アキノ(母)政権の時に制定(1987年)した現憲法内に『国は公職に就く機会均等を保証し、別に定める法律で(議員職などの)政治的世襲を禁じる』と明記されているのだが、『別に定める』という文言が曲者で、自らの首を絞めるようなことは決してしない国会議員によって、法案は一度も制定されず、今日に至っている。
しかし、2013年11月、下院の関係委員会で『世襲制限法案』が可決される画期的な出来事があった。この後に下院本会議、上院と越えなければならない山はいくつもあり、法案成立を目指す一部議員からこの法案を優先議題にして、審議する要求がアキノ大統領【写真】に出された。
同法案の骨子は規制対象として『2親等以内の親類2人以上が同時期、あるいは一部重複した期間などに公職に就いたり、立候補を禁ずる』内容となっていて、これでは議員の成り手が消えてしまうと、世襲によって特権を維持していた議員は大反対で、早くも法案は流産ではないかと審議前に見通されている。
この世襲の蔓延は汚職の源と誰でも分かっていて、例えば1986年のエドサ政変の時にハワイに逃げた過去などすっかり忘れている、マルコス元大統領の妻イメルダは現下院議員、その娘は州知事、息子は24人しかいない上院議員と、領主気分で地元で強固に根を張っている。
一方この法案を優先にするように求められているアキノ現大統領にしても、期間は空いているというものの世襲、その従弟や親類には上下院議員が居て、何かと話題を提供する芸能人の妹が次期上院選挙に出るのではとささやかれている始末。
このような世襲問題だけでなく、フィリピンでは連続3回、計9年以上は下院議員、自治体首長、自治体議員を続けられない立候補制限の規定を持つが、9年続けても3年間を一度休めば3年後に立候補できるザル法。
空けた3年間を妻や娘といった身内に取り敢えずやらせて、中には手下にやらせる者もいて、3年後に復帰する手法が蔓延。
これで面白い例としては、セブ市長の座を巡って昨年はその手を使っていた老獪な人物が、身代りに一期やらせた候補者に負けるという寝首をかかれる珍しいこともあったが、これは例外な方。
他にもミンダナオ島最大都市ダバオ市では、娘に1期やらせて、市長だった本人は副市長に居直り、昨年の選挙でまた市長に復活、こういった手で何十年も政治を私する輩は枚挙にいとまがない。
こういった手法を使う候補者に対して票を入れる選挙民も愚かと批判するのは外部の眼だけで、選挙区の住民にとってはおこぼれにあずかれる盤石の政治体制であり、理想よりも現実が勝っている。
このようにして世襲を幹にして一部の人間が長期に渡って政治を独占、風通しが悪くなって汚職を根絶できないのがフィリピン政治の問題と、長く指摘されているが、今回の法案にしても『いつものポーズ』だけとの冷めた声も強い。
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