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 フィリピンの捜査、司法制度の欠陥は、従来から色々指摘されているが、中でも物証ではなく目撃証言に頼る捜査、裁判について強い批判が寄せられている。
2016年7月31日午前10時頃、ルソン島カヴィテ州イムス市(人口42万人)【同図】で同市に住む東京都出身の53歳男性邦人が、オートバイに乗った人物から自宅前で銃撃され死亡する事件が発生(その年の2件目の邦人殺害事件)。
捜査当局は殺害された邦人と同居していたフィリピン人女性(当時26歳)の元愛人による犯行と断定し行方を追っていた。
殺害された邦人はフィリピン人女性との間に1歳の息子があり、2014年から数ヶ月置きに日本とフィリピン間を行き来する生活を続けていたが、このフィリピン人女性に愛人があった事を見抜けず、また殺害された邦人にも複数の愛人がいたとの情報もあり、何らかの恨みを買って今回の事件に発展したと見られている。
この実行犯である同居女性の愛人は現在逃走中で、犯人として断定されたのは、同地区にあるサリサリ・ストア(小規模食品・雑貨店)の女性店員による目撃証言からであった。
そのため、警察と検察側はこの女性の証言を証拠として採用するために、事件後の8月と9月に4回に渡って予備捜査のために召喚を行ったが、この女性が召喚に応じなかったために、当局側は立件は難しいとして不起訴処分とした。
この女性が証言を拒んだのは、犯人による自身や家族への仕返しを恐れたためで、女性は事件後に仕事を辞めて同地区から離れて暮らしている。
こういった犯行者による仕返しというのはフィリピンでは多く、犯行者だけではなくその一族による仕返しというのも多い。
そのため、進まない捜査と裁判の実態に業を煮やした警察は、実行犯あるいは容疑者を問答無用に射殺して、関係者によると『手間を省く』事例が多く、その極端な例がドゥテルテ政権が進める違法薬物関与者に対する『抹殺』で、2016年6月の政権発足後に殺害された容疑者は7000人を超える異常事態がまかり通っている。
イムス市の同事件のあった7月の翌月8月11日にも、ラグーナ州カランバ市で、73歳の邦人男性が自宅で刃物で刺される殺害事件が発生していて、この事件もフィリピン人妻(34歳)が愛人と共謀して起こしている。
しかし、こちらはフィリピン人妻の自供が得られてその愛人と共に逮捕された。このように解決へ向かう邦人殺害事件は珍しく、邦人絡みの殺害事件はこの国では迷宮入りが多い。
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