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事件は2014年10月半ばに、ルソン島中部サンバレス州オロンガポ市で発生した。

被告のアメリカ海兵隊員は、同地で被害者を女性と思って買春し、ホテルにチェックインして被害者が性転換者だったことに逆上し、被害者の顔を便器に突っ込んで窒息死させ『殺人罪』で逮捕、起訴された。
フィリピンとアメリカの間には『訪問米軍地位協定(VFA)』が締結されていて、この協定はフィリピン側には著しく不平等なもので、かつての沖縄と同じようにアメリカ兵がフィリピンで事件を起こしても身柄の拘束はアメリカ側に権限があって、今回のような殺人のような重大事件でも、フィリピン側は身柄引き渡しを要請できるだけで、アメリカ側は治外法権そのもので一応考慮するとなっている。
またVFAによると、『起訴から1年以内に結審しない場合は、アメリカ側は被告の身柄を確保し、出廷させる義務がなくなる』と、この手の裁判は数年以上はかかるフィリピンの裁判事情を逆手に取った条項があって、殺人を犯したアメリカ兵は協定によるとアメリカへ帰国できてしまうとんでもない取決めまである。
被告が起訴されたのは2014年12月15日で、そのためもあってか、フィリピン側は驚異的な審理スピードで12月1日に辛うじて判決が出た。
この裁判では検察、遺族側は最高刑が終身刑(フィリピンは死刑制度は事実上凍結)を望んだが、判決では計画性はなく『一般殺人』とし、禁錮6~12年の比較的軽い判決を下した。なお、同時に賠償金として400万ペソ(約1100万円)を命じている。
判決後に被告の身柄を巡って、一審で有罪だった被告は通常、首都圏モンテンルパ市にある刑務所へ収監されるが、アメリカ側は身柄移送を拒否し、結局、今まで被告を拘置していた首都圏ケソン市にある国軍本部内で拘置されることとなった。
こういった措置が取られるのもVFAに『司法手続き完了までアメリカ側に身柄拘束権はある』とされていて、アメリカは自国民、しかも軍人による重大事件の主権を一方的に主張し、VFAの不平等性が浮き彫りになっている。
VFAはかつて、アメリカがフィリピンにアジア最大の海軍基地をオロンガポ市に、同じく空軍基地をクラーク地域に持っていて、アキノ(現アキノの母親)政権時代に基地を返還して、その後情勢の変化によりアメリカ軍が随時駐留できるようにした協定で、この協定に関しては上院で批准されていないために『違憲』の疑いがあると問題視されている。
日本も安倍政権になってからアメリカと同様の軍事協定をフィリピンと結び、自衛隊の海外派兵を合法化しようとしている動きがある。
いかなる殺人犯といえども『人権』は当然あるが、この手の事件ではアメリカの主権がフィリピンを蹂躙していることは確かと内外に知ら示した。
【写真はセブ市の刑務所にて】
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